前田速夫著 「新しき村」の年 <愚者の園>の真実

 一世紀前、武者小路実篤を中心として「新しき村」が創設された。戦争や暴動など国内外が騒然とする時代にあって、「人類共生」の夢を掲げた農村共同体は、土地の移転、人間関係による内紛、実篤の離村と死没など幾度も危機に晒されながらも、着実な発展を遂げていく。世界的にも類例のないユートピア実践の軌跡。

 「ある青年の夢」には、戦争の恐怖と無意味だけでなく、敵対する国同士は、常に相手国の侵入を恐れており、自国の防衛を口実に軍備の増強を競い、それが真っ直ぐ戦争につながるありさま(今日の険悪な国際情勢も変わらない)が語られている。そればかりか、「人間がまだ人類的にまで成長しきれない内は戦争が止まないものだと思っています。今のまま国家が存在してゆけばますます戦争がさかんになると思います」と、民衆の覚醒による国家の解体をも示唆する。

 画家の中川一政は、仙川の実篤邸と隣り合って記念館がオープンする際、「この人は小説を書いたが小説家と言う言葉で縛られない 哲学者思想家乃至宗教家と云ってもそぐはない そんな言葉に縛られないところを此人は歩いた」との揮毫を寄せている。